人文社会学科社会学コース 陳怡禎(社会学)
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メディアとしてのアイドル

日本に起源を持ち、東アジアを中心に世界中のファンから支持を受けるアイドル文化は、しばしば個人的に楽しむ「趣味」の領域に限定され、定義されることが多いです。しかし、「アイドル」の表象は、社会の現状を如実に反映する場であると同時に、現代社会の規範に対してさまざまな形で対抗が行われたり、理想が投射されたりする場でもあります。
つまり、「アイドル」を単なる一過性の流行として捉えるのではなく、社会の変容や社会に属する人々のコミュニケーションのあり方が投影されるメディア空間として理解すべき存在です。私は研究者として、アイドルとそのファン文化を「学問」として捉え、東アジアにおけるアイドル文化に関する考察を通じて、アイドルの表象に投影される社会規範や欲望の様態を研究してきました。
ジェンダー視点から女性ファン文化を見る

女性による趣味の実践は、「ベッドルームカルチャー(Bedroom Culture)」として長らく私的空間で行われるものとして位置付けられてきました。このように、女性ファンによるアイドル消費は「余暇」として位置づけられ、労働など「社会的・公的」な時間や空間から排除され、周縁化され、女性のファンコミュニティは不可視化されてきました。
「推し活」が流行語として注目される現在では、私は女性のアイドルファンコミュニティに焦点を当て、趣味を中心とした女性共同体が既成の社会構造の中でどのように自らの“文化的場所”を築いているのか、さらに共同体外部からの眼差し(社会的規範)にどのように対処しているのかについて研究を行なっています。
「趣味」が人々の国際移動を後押しする

2012年以来、日本における在留外国人の人数は右肩上がりに成長し、現在の日本社会はすでに移民社会となりました。従来の日本における移民研究は、主に経済的および政治的視点から分析されてきましたが、日本に移住した外国人の来日動機に関する調査では、日本への愛着感情が重要な要因として挙げられています。このような「日本への愛着」は、日本のアニメ、アイドル、ドラマなどのポピュラーカルチャーの国際的な流通・受容と関連していると考えられます。
私は、フィールドワークという研究手法を用いて、このような感情的動機によって国際移動を行う人々を「趣味移民」と名付け、彼らが異郷である日本において、どのように血縁、地縁、社縁といったフォーマルな社会的紐帯に依存せず、趣味を中心とした共同体を構築し、さらにどのように日本社会へ適応していくのかを研究しています。
政治的場面における日常的な趣味文化実践

我々は慣習的に、自らの趣味文化実践を、個人的感情を満足させる極めて個人的・私的な行為として捉える一方で、政治を個人ではなく公共の利益のために行われる公的な実践と認識しています。この意味において、我々にとって日々楽しむ「趣味」と「政治」は、交わることのない両極端に位置する概念であると言えるでしょう。
しかしながら、2010年代以降の東アジアにおける社会運動や政治運動では、それに関与する若者たちが、マンガ、アニメ、アイドルファン文化など、日常生活で楽しむ趣味を政治運動の戦略として活用し、政治的局面に変革をもたらそうとしています。私は、このような政治的場面における趣味文化の実践に焦点を当て、趣味文化と政治の接点を探究しようとしています。
趣味実践の公共性および対抗性

ICT時代では、人々はインターネットを通じて「いつでも、どこでも」社会/政治運動に参加できます。そのため、社会変革に関心を持つ人々が、日常的かつ継続的に活動に関わることが可能になっています。日常的実践とされる「趣味」は、公的な社会/政治活動とは別のものと考えられがちでした。しかし現代では、参加者が日常の趣味を対抗の「戦術・戦略」として活用し、既成の権力に異議を申し立てる事例が見られるようになっています。
私は、社会運動論とファン研究の両側面から東アジアの政治運動を研究し、人々が自身の趣味をいかに戦略として活用し、対抗的公共性を形成するのかを明らかにすることで、東アジアの社会運動論とファン研究に新たな理論的枠組みを提供することを目指しています。