心理学コース 狗巻修司(発達心理学)
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発達とは何か?

人間は生涯をかけて発達的に変化していく。子どもと大人は体格だけでなく、モノの捉え方や価値観など、さまざまな面で大きく異なる。人間はなぜ発達するのか?という問いは発達研究における永遠のテーマである。
発達と類似する用語として、成長がある。厳密にいうとこれらは全く異なる現象を指している。成長は量的変化を表す際に用いられるが、発達は質的変化を表す際に使用される。そのため、発達という現象を捉えるためには「段階(発達段階)」として時期区分する。それぞれの段階において特徴的にみられる行動がどのようなメカニズムで生じるのかを検討する学問が発達心理学である。
前言語期におけるコミュニケーション

生まれてすぐの乳児は大人のように話し言葉を用いることはできない。個人差はあるが、多くの場合は1回目の誕生日をむかえる前後から、特定の意味をもつ単語を話し始める。それでは「生まれてから1年間はコミュニケーションができないのか?」と問われれば、答えは「否」となる。人間のコミュニケーションには話し言葉だけでなく、非言語(ノンバーバル)のコミュニケーションもあり、生後1年目の乳児はこれらを巧みに使いながら、周囲の大人とコミュニケーションを行い、話し言葉を獲得していく。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(ASD)とは、①社会的なコミュニケーションの困難さと、②特定の事象に対する強い興味・関心(こだわり)とをあわせもつことを特徴とする神経発達症(発達障害)である。
知的発達症(知的障害)のあるASD児者もいれば、ないASD児者もいる。また、複数のこだわりを示す場合もあれば、強いこだわりをほとんど示さない場合もある。このように、「同じ診断名」でカテゴライズされるものの、誰一人として「同じ状態」となることがなく、その多様性を示すために用いられるのがスペクトラム(連続体)である。
このような捉え方は、特性の「有・無」(あるいは障害の「有・無」)という二元論的捉え方を乗り越える上でも重要な意味をもつ。すなわち、ASDのある人は、ない人と連続的な存在であり、区別されるた存在(例:障害者と健常者)ではない。
自閉スペクトラム症と発達

知的発達症のある・なしにかかわらず、ASD児者も発達する。そして、発達に伴い、他者とのコミュニケーションや「こだわり」のあり方や特徴も変化する。私はこれまで知的発達症のあるASD児のコミュニケーションの特徴とその発達的変化について、保育場面や療育場面の観察により研究してきた。とくに、ASD児と保育者との愛着関係の変容過程や、指さしに代表されるノンバーバル・コミュニケーションの発達が保育者との相互交渉に与える影響について学術的関心を寄せてきた。
また、近年はASD児のコミュニケーションの発達的変化と「こだわり」の変容過程の関連について検討を進めており、ASD児と保育者との相互交渉が変化するなかで「こだわり」の様態が大きく変化することを明らかにできつつある。現時点までの研究成果を総括的にまとめた一冊が『知的障害をもつ子どもの発達的理解と支援』である。
自閉スペトラム症のある子どもへの支援

ASD児を対象とした研究に従事しながら、保育所・幼稚園での相談活動や大学相談室でのプレイ・セラピーなども行なっている。発達研究の特徴の一つとして、基礎的な研究だけでなく、研究で得られた知見を支援場面に還元できることが挙げられる。同時に、これらの活動を通して新たな研究の視点が得られることもある。理論と実践の往還こそ、発達研究の最大の魅力であろう。